あまちゃん論 足立ユイ(足立結衣)
この人は特殊な人である事はあのドラマ、あまちゃんをご覧の方なら薄々感じておられると思います。終始一貫性の無いキャラクター造形、歪な家族構成、最後まで朧な、一種落書きに近いような扱いの登場人物であると同時に、演者である橋本愛の力もあって、あの物語で最もリアルな存在。
彼女は何者だったのか。天野アキが結局何者だったのか、と同じく。彼女と天野アキの物語はつかず離れず、重層構造としてストーリーをかたどっていました。
あのドラマには、名前がカタカナ表記される人物が3人登場します。天野秋(天野アキ)、足立洋(ヒロシ)、足立結衣(ユイ)です。彼らが物語中、一種特別な存在である事は明らかでした。特になぜヒロシとユイは兄弟という設定だったのか。
(正確にはもうひとり、名前がカタカナ表記される人物がいます。ヒビキ一郎(W))
ドラマとしてではなく、あまちゃんを特異なメディア商品として見つめ始めていた私は、やはりあの不思議な準主役の女の子とその家族たちが何の意味を持つ存在であるかを考え考え見ていました。能年玲奈の圧倒的輝きに照らされて、時に消えてしまいそうなくらいに霞む橋本愛(これがいかに異常な事か!)演じる足立ユイ。彼女がなにものであるかを探り続けていました。
9月2日放送。ついに東北大震災が発生します。予定されたクライシスが起こる。この物語の、ある意味原作が登場する事になる。その時、あの物語中最も重要なシーンがユイちゃんの目から、その表情から展開される。
震災直後。トンネルの中に取り残される北鉄のディーゼル車両。大吉が意を決し、何がおこったのかを確認にいく。希望の光と思ったその先に待っていたのは、無残に破壊された鉄橋だった。子供のように泣きじゃくる大吉。その傍らに、いつの間にか列車を降りて大吉を追っていたユイ。
「ユイちゃん見るな」大吉の涙声に。
静かにしかしキッパリと答えるユイ。「ごめん。もう遅い」。
その時の橋本愛のカットはあのドラマのリアルなクライマックスを意識せざるを得なかったものでした。あのシーンの為に、あのドラマはあったんじゃないか。
橋本愛は、足立ユイは何を見たのか?
「時間」だと思うのです。「閉鎖され、循環し続ける時間」。「止まった時間」。
あの9月2日までの放送は全て一種の夢のように消えてしまった。正確にはあの壊れた鉄橋に吸い込まれてしまった。あれはなんだったのか?
出口のない時間だったと思うんです。変わることなく、止まってしまった時計。
彼女はあの物語世界が「止まった時間の物語」である事を理解していた。
彼女jは、「もう遅い」、と、誰にどういう意図で言ったのか?
あれ、実は大吉に「告げた」のではないか?
いや、大吉に見て悲しくなるものを見てしまった事を告げたんじゃないのです。
大吉が、見てはならないものを見てしまった事を悔いているんです。
あの世界は北鉄によって外の世界とつながっていた筈なんですね。
嘘なんです。繋がってなかつた。それが無残に目の前で砕けていた。
足立ユイは知っているんです。彼女は、いや彼女たちは。
あの世界から外へ出ていけない事を!
あの物語が、終わらない日常を繰り返す閉鎖時間である事を、大吉は薄々は感づいていた。ジャンプ!と叫びながら、きっと日常はいつの日か次の時間を迎えるのだと信じて、北鉄の、時代遅れの事実上レールバスのレールの上を走り続けていた。
しかし、彼も本当は知っていた。あの鉄道がどこにも自分たちを連れて行ってくれない事を。この時間から、どこへも連れて行ってくれない事を。
足立ユイは、そのことを大吉に向かって追認したんです。
「大吉さん、見てしまったんですね。そうだよ。この世界の時間は止まってるんだ。ごめんね。もう遅いね」と。
足立ユイとは何者なのか?あの子はどうしてあんなにアヤフヤな存在だったのか?
ちょっと結論を急ぎます。
彼女は時間旅行者だったんじゃないか。止まってしまった時間の物語であるあまちゃんの世界で、彼女は何度も何度も、あの景色を見続けた人なんじゃないか。
劇中に登場した足立ユイは、17歳の少女であると同時に。天野夏の昔から、2012年7月1日の海開きの日のトンネルに向かって走るシーンまでをつなぐ人だったのではないか。
2013/11/28 追記
ある方から、カタカナ名前表記は他にも宮下アユミ、喜屋武エレン、ベロニカもいるとお叱りをうけ、こりゃまいったねと。確かに。
名前がカタカナの人って珍しいし、普通はこの二人にも漢字の当て字があるよなとは思います。はい(劇中をBRで確認してハッとしましたが、天野アキはGMTの名札では「天野秋」表記なんですね……。)。
言い訳するなら宮下、喜屋武の二名は割と物語のキーになる人物、ベロニカはブラジルハーフという言い訳を(^_^;)
このエントリーでは、足立ユイについての考察を書き続けてみたいと思ってます。
2013/11/28 追記
物語でタイムリープする人って、自分の記憶を持ち越してるモンだと思い込んでませんでしょうか?物語上では多くの場合、そのように描かれてる。しかし同時に、タイムリーパー達の記憶は消えてしまっている描写も多く描かれてるんですよね。
おや?こんなところに某作品でのさる人物のカット。
足立ユイちゃん。登場初期。「アイドルになるんだあ」。
名演技。「バカなのか?」
それからいろいろあって。
ちっちゃくてすいません。途中で登場するヤンキーユイ。ナポリタン涙して喰うシーンでしょうか。
ちっちゃくてすいませんが種市先輩の写メと。
ユイちゃんが返信したメール。あまりにも有名なシーンです。そう。日付です。
ユイちゃんは更生して海女になるが……
そのシーンはついに劇中に流れませんでした。
なんで?浜辺歩くだけでも撮っときなよ。絶対いいじゃんその方が。
不思議だったんです。なんでヤンキーユイの髪型、元に戻しちゃうの?ハッキリ言って元のヘアスタイルより似合ってましたよね?
あれはあの子(足立ユイ)の歴史そのものです。
というか、アイドル、あんた、アイドルになるの、冷めたんだよねえ?
ていうか、これが普段の橋本愛です。
だから何?と?わかるやつだけわかればいい……
クドカンはわかる奴だけに分かればいいとは思ってないよ、とも言ってますけどね。
続くよ♪